「どうしてこんな面倒なことをしてくれたんだ。不逞浪士の取締りじゃなかったのか?」
眉間に皺を寄せた土方さんが、舟涼みに出た皆を睨む。
ただ今副長のお説教タイム…ということで、私達は芹沢さん一派以外、京屋の一室に呼ばれ全員正座中だったりする。


「まぁまぁトシ、やっちゃったものは仕方ないだろう?とりあえず俺はこの件を奉行所に届けてくるぜ。」
「ああ頼む。」



それまで部屋にいる全員に注がれていた土方さんの視線が、山南さんを捉える。
「あんたが付いていながら、どうしてこんな事になるんだ。何故止めなかった?」
「止めて引き下がるような人だと思うかい?」




うわっ…土方さんの顔がますます険しくなってる!
っていうか、山南さんはどうして言い訳しないの?
あの時は、その場に居合わせなかったのに。


「あのぉ…………」
重苦しい空気に耐えられず、口を出してみる。
「………何だ?」
「芹沢さんが力士達と出くわした時、私と山南さんはその場にいなかったんですけど…」
「ほう?その時のことを詳しく話してもらおうか。」







とりあえず、舟涼みの最中に、私が川に落ちたこと、そして遊郭に行くまで皆とは別行動であったことを説明した。







「だから、山南さんは止めることは出来なかったんです。もしそれで山南さんを責めるのであれば、私にも…」
最後まで言う前に、山南さんが私を制した。
「君が気にすることはないよ。」


土方さんの表情は複雑だ。
「何故最初からそう言わない?」
「起きてしまった事に弁解した所で、物事が無かった事になるわけではないしね。」
「だが事実を把握するのは必要だろう?以後気を付けてくれ。」


一応山南さんへの誤解は解けたのかな?





「そういえば君、凄かったんだってねぇ。」
突然今までの空気を一変させるかのように、近藤さんが口を開いた。
「何の話ですか?」
「聞いちゃったんだよねぇ、君の武勇伝をさぁ♪」
「………!!」


それって、もしかしなくても、力士と乱闘したあの時の…
山南さんがそんなこと、近藤さんに話すはずはないし、一体誰が!?

「あの…その話は誰から……?」

「決まってるじゃないか!斎藤くんだよ。」

「…………!!」



斎藤さん!?
そういえば、あの時奥の間に居たけど。
具合が悪くて寝てたんじゃないの!?
恐るべし監察方……逐一真面目に報告する辺り、山崎さんより性質が悪いかもしれない。


「いや〜まさか山南さんとねぇ…女の子には興味がないのかと思って、日頃から心配していたんだけどさ。」




…………はい?




「あの…一体何の話を……?」
「とぼけても無駄だぜ?皆が力士と乱闘してる間に、熱い時間を過ごしたんだろう?」


斎藤さんは、何をどう伝えたんだ?
何だかかなり誤解を受けているような……


「え?サンナンさんが?」
「近藤さん、俺達にもその話詳しく聞かせてくれよ!」


今まで神妙だった永倉さんと原田さんが、この話題になった途端、目を輝かせ始めた。




「で、どうなの?山南さんは良かったかい?」
「なっ……何の話をしてるんですかっ!何もありませんってば!」

これは、絶対言葉のセクハラだ!
全くここの連中ときたら……


「まぁ、野郎が集まってたら、大抵はこういう話だよ。」
勝手に盛り上がってる近藤さん達を横目で見つつ、呆れ顔で言う平助くん。
「近藤さんの耳に入っちゃったってのが、運の尽きだね。」

そんな………


「ねぇねぇ山南さん。君はああ言ってるけど、本当の所はどうなんだい?」

ちょっ……何で山南さんに話を振るのよっ!



「近藤さんも人が悪いな。」



そうそう!ちゃんと否定してあげて下さい。


「そういう事は、人に話すものじゃないだろう。」




…………えっ!?




「ねぇ君?」
「やっ……山南さん!?」
そう言うと、山南さんは爽やかな微笑を向けてくる。

「………マジかよ…」
「こりゃスゲェぞ!」

何だか、さっきより更に誤解を受けている気がするんですけど…
どうしてそんな意味深な物言いをするんですか。




早くこの部屋から立ち去りたい………



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